「天然素材なら静電気は起きないはず!」そう思って買ったお気に入りの綿のニットやシャツで、まさかの「バチッ!」を食らってショックを受けているあなたへ。
「綿=静電気ゼロ」っていうイメージ、ありますよね。でも、クリーニング屋の店主として言わせてもらうと、「綿100%だからこそ」の落とし穴があるんです。
実は綿って、「誰と組むか(重ね着)」と「どれだけ乾いているか(湿度)」によって、静電気を起こす加害者にも被害者にもなる、ちょっと気難しい素材なんですよ。
今回は、クリーニング店で毎日お客さんの服を触っている私が、綿100%なのに静電気が起きる意外な原因と、今日からできる解決策を分かりやすくお話しします。これで冬の「バチッ」怖くない生活、取り戻しましょう!
「綿なら安心」は勘違い?
まず最初に、誤解を解いておきましょう。「綿100パーセントなら絶対に静電気が起きない」というのは間違いです。確かに綿は、ポリエステルやアクリルといった化学繊維に比べれば、繊維の中に適度な水分を含んでいるため、電気を空中に逃がしやすい(放電しやすい)性質を持っています。これが「綿は静電気が起きにくい」と言われる理由です。
しかし、これはあくまで「起きにくい」だけであって「ゼロ」ではありません。条件さえ揃ってしまえば、綿だって立派に帯電します。
特に、後述する「乾燥」と「摩擦」の条件が重なれば、綿も電気を溜め込む「絶縁体」になってしまうのです。「綿を着ているのに!」と怒る前に、まずはその綿が置かれている環境を見直す必要があります。
犯人は「重ね着」にあり!
静電気が起きる最大の原因は、実は素材単体ではなく「組み合わせ」にあります。これを専門用語で「帯電列(たいでんれつ)」と呼びますが、服の素材には「プラスの電気」を帯びやすいものと、「マイナスの電気」を帯びやすいものがあります。このプラスとマイナスの距離が遠いもの同士をこすり合わせると、雷のようにバチッとくるわけです。
綿はちょうどこの真ん中、「中性」に位置しています。これだけ聞くと平和そうに見えますが、例えば、プラスの性質が強いウールのセーターの下に、マイナスの性質が強いポリエステルのインナーを着て、その間に綿のシャツを挟んだとします。
そうすると、両極端な電気のケンカに巻き込まれて、真ん中の綿が静電気の通り道(媒体)になってしまうことがあるのです。綿だから安心なのではなく、前後の服との相性を見てあげないと意味がありません。
「アクリル×綿」は意外と危険な組み合わせワースト1
具体的な「魔の組み合わせ」をお教えしましょう。冬場に皆さんがやりがちなのが、あったかインナー(吸湿発熱素材)の上に綿のシャツを着るパターンです。多くのあったかインナーには「アクリル」という素材が使われていますが、このアクリルは「マイナス」の電気が非常に強い素材です。
一方で、綿は中性ですが、少しプラス寄りの性質を持つこともあるため、マイナス最強のアクリルと激しく擦れ合うと、結構な確率で静電気が発生してしまいます。「綿の服を着るときは、インナーも綿にする」。これが最も確実な安全策です。素材の相性を表にしましたので、コーディネートの参考にしてください。
| 電気の性質 | 素材の例 | 綿(中性)との相性 |
| プラス(+) | ウール(羊毛)、ナイロン | 擦れると少し起きる可能性あり |
| 中性(0) | 綿(コットン)、絹(シルク) | ここ同士なら起きにくい(ベスト) |
| マイナス(-) | アクリル、ポリエステル | 距離が遠いので起きやすい(注意) |
カサカサの綿は電気を溜め込む!
冬になると肌が乾燥してカサカサになるのと同じで、服だって乾燥します。先ほども触れましたが、綿が静電気を逃がせるのは、繊維の中に水分を持っているからです。水は電気を通すので、自然と放電してくれるわけです。
しかし、日本の冬、特に太平洋側のように湿度が20%や30%になる環境では、綿も水分を保てずに「ドライコットン」になってしまいます。水分を失った綿は、ただの乾いた繊維の塊です。
こうなるともう化学繊維と同じくらい電気を溜め込みやすくなってしまいます。加湿器をつけて部屋の湿度を上げたり、クローゼットに詰め込みすぎずに空気を通したりして、服にも「保湿」をしてあげることが重要です。
柔軟剤嫌いな人ほど要注意!
「綿の自然な風合いが好きだから、柔軟剤は使わない派」というこだわり、よく分かります。でも、静電気対策という点だけで見れば、柔軟剤は最強のガードマンです。柔軟剤に含まれる「界面活性剤(陽イオン系)」は、繊維の表面を薄い油膜でコーティングし、電気を逃がす層を作ってくれます。
このコーティングには2つの効果があります。1つは、表面を滑らかにして「摩擦」そのものを減らすこと。もう1つは、空気中の水分を吸着しやすくすることです。つまり、繊維の表面を電気の逃げやすい状態にしてくれるのです。もしバチバチが酷いなら、冬の間だけでも少量の柔軟剤を使ってみることを、プロとしてはお勧めします。最近は無香料のものも優秀ですよ。
「本体:綿100」の表記に隠れた、ポリエステル糸の存在
これは少しマニアックな話になりますが、洗濯表示のタグに「本体:綿100%」と書いてあっても、完全に信用してはいけません。なぜなら、その服を縫い合わせている「縫製糸(ミシン糸)」までは綿だとは限らないからです。
現代の服のほとんどは、強度を出すためにポリエステルの糸(スパン糸)で縫われています。さらに言えば、首元のブランドタグや、洗濯表示のタグそのものもポリエステルやナイロン製であることが多いです。
本体は綿でも、脇の下や背中といった摩擦が起きやすい部分に化学繊維の糸が走っていれば、そこを起点に静電気が発生して「痛っ!」となることがあります。本当に敏感な方は、糸までオーガニックコットンを使っている製品を選ぶなどの工夫が必要です。
カラカラに乾いた「ドライコットン」を、しっとり「放電コットン」に戻す洗濯テク
洗濯物を早く乾かしたくて、コインランドリーや家庭用の乾燥機(タンブラー乾燥)を長時間使っていませんか。乾燥機は高温の熱風で水分を極限まで飛ばすため、仕上がった直後の綿製品は、水分ゼロの「帯電モンスター」状態です。取り出す時にバチバチいうのはそのせいです。
静電気を防ぎたいなら、乾燥機の時間は短めにして、最後は少し湿っているくらいで取り出して自然乾燥させるのがベストです。もし完全に乾かしてしまった場合は、着る前に霧吹きでシュッと一吹き水をかけてあげるか、お風呂上がりの湿気のある脱衣所に一晩吊るしておくだけでも、繊維が水分を取り戻して落ち着きます。
出先で静電気除去スプレーがない時に「水」と「ハンドクリーム」で切り抜ける裏技
最後に出先での緊急対処法です。綿のスカートやワイドパンツが足にまとわりついて歩きにくい時、静電気除去スプレーを持っていればいいですが、いつも持ち歩いているわけではないですよね。
そんな時は、トイレで手を洗ったついでに、濡れた手でスカートの裏側や、タイツの上から足を軽く撫でてあげてください。水分補給で一時的に放電できます。
もしハンドクリームを持っていれば、それを薄く手に伸ばして、同じように足や服の裏地を撫でるのも効果的です。油分が摩擦を減らしてくれるので、水よりも効果が長持ちします。壁や地面に手のひらをペタッとつけて放電してから服を触るのも基本ですので、覚えておいて損はありませんよ。

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