「雨で濡れたウインドブレーカー、明日も使うから乾燥機で一気に乾かしたい!」「洗濯機から取り出す時、仕分けが面倒でナイロンのエコバッグも一緒に乾燥まで回してしまった…」
そんな経験、ありませんか。そして乾燥機の扉を開けた瞬間、クシャクシャになった無残な姿を見て絶望する。クリーニング店を営む私の元にも、「これ、直りますか?」と持ち込まれるのが、この「ナイロン乾燥機事故」です。
結論から言うと、ナイロンと乾燥機は、混ぜるな危険の水と油のような関係です。なぜポリエステルは大丈夫なのにナイロンはダメなのか、うっかり回してしまった時に家でできるリカバリー策はあるのか。プロの知識と主婦の知恵を合わせて、ナイロン素材との正しい付き合い方を徹底解説します。
ナイロンは乾燥機NG?
多くの人が「乾燥機=縮む」とイメージしますが、ナイロンの場合は少し違います。ナイロンは「熱可塑性(ねつかそせい)」という性質を持っており、ある一定の温度を超えると柔らかくなり、冷えるとそのままの形でカチカチに固まってしまうのです。
チョコレートをイメージしてください。溶けて形が崩れたまま冷蔵庫に入れると、変な形で固まりますよね。あれと同じことが繊維レベルで起きています。
乾燥機の中では、熱風と共に激しく叩きつけられ、ねじられます。その状態で「熱可塑性」が発動すると、本来の形を失ったねじれた状態で冷やされ、固定されてしまいます。
これが、ナイロン特有の「取れないシワ」や「ゴワゴワした手触り」の正体です。単にサイズが小さくなる綿の縮みとは違い、生地の組織そのものが変質してしまうため、一度こうなると元に戻すのは非常に困難なのです。
ポリエステルはOKでナイロンはダメ?「耐熱温度」と見分け方
「化学繊維なんだからどっちも一緒でしょ?」と思われがちですが、クリーニング師にとってこの2つは天と地ほど違います。決定的な差は「ガラス転移点(変形が始まる温度)」にあります。
| 素材 | ガラス転移点(変形開始温度) | 乾燥機適正 |
| ポリエステル | 約70℃〜80℃ | △(低温なら可) |
| ナイロン | 約50℃〜60℃ | ×(基本的に不可) |
ご覧の通り、ナイロンの方が熱に弱く、わずか50度前後から変形のリスクが発生します。一般的な乾燥機の温度は60度以上になることが多いため、ポリエステルは耐えられても、ナイロンは限界を超えてしまうのです。
タグが見当たらない場合、手触りがツルツルして少し冷たく感じるのがナイロン、サラサラしてハリがあるのがポリエステルであることが多いですが、見た目での判別はプロでも難しい場合があります。迷ったら「乾燥機に入れない」が鉄則です。
ドラム式洗濯機の「低温乾燥」ならセーフ?
最近のドラム式洗濯機には、服に優しい乾燥機能がついているものがあります。ここで重要になるのが、あなたの家の洗濯機が「ヒートポンプ式」か「ヒーター式」かという点です。
「ヒートポンプ式」は、除湿しながら60度程度の温風で乾かすため、ナイロンでもギリギリ耐えられる場合があります(あくまで自己責任ですが)。
一方、縦型洗濯乾燥機や古いドラム式に多い「ヒーター式」は、ドライヤーのように80度近い熱風を直接当てるため、ナイロンを入れると確実に傷みます。「低温乾燥モード」や「おしゃれ着乾燥モード」があれば、温度を低く制御してくれるのでリスクは下がりますが、それでも金具(ファスナーやボタン)が熱を持って生地を溶かす事故は防げません。やはり自然乾燥が無難です。
コインランドリーは絶対禁止!
家庭用洗濯機で迷っているならまだしも、コインランドリーのガス乾燥機にナイロンを入れるのは自殺行為です。コインランドリーの乾燥機は、パワー重視で80度以上の高温になることが一般的です。
この高温に晒されると、生地全体が波打つように変形する「パッカリング」が起きます。特に悲惨なのが、ファスナー(ジッパー)部分です。ファスナーのテープ部分と生地の収縮率が違うため、ファスナーが波打ってしまい、上げ下げができなくなります。
また、プリント部分が熱で溶けて剥がれたり、他の衣類にくっついたりする二次被害も多発します。コインランドリーでナイロンを回していいのは、もう捨てるつもりの服だけだと思ってください。
うっかり乾燥機にかけてしまった!シワシワごわごわのナイロンを「スチーム」で蘇らせる緊急処置
「やってしまった…」と、シワシワのナイロンジャケットを前に呆然としているあなたへ。まだ諦めないでください。軽度の変形なら、プロの技「スチーム整形」で緩和できる可能性があります。
用意するのはスチームアイロンです。ただし、絶対にアイロン面を直接生地に当ててはいけません(溶けます)。生地から1センチ〜2センチ浮かせて、たっぷりの蒸気(スチーム)だけを浴びせます。
蒸気の熱と水分で繊維を「緩めた」瞬間に、手でググッと引っ張ってシワを伸ばし、形を整えます。そしてそのまま冷ますことで、正しい形に「再固定」させるのです。完全に元通りとはいきませんが、着用できるレベルまで目立たなくすることは可能です。
ストッキングやタイツは一瞬でゴミ箱行き?
冬場の厚手のタイツや、毎日のストッキング。乾かないからといって乾燥機に入れていませんか。これは寿命を劇的に縮める行為です。ストッキングに使われている極細のナイロン糸と、伸縮素材のポリウレタンは、どちらも熱に弱い素材です。
乾燥機に入れると、熱で繊維の強度が落ちて脆くなり、履こうとした瞬間に「ビリッ」と伝線しやすくなります。また、ウエストゴムや足口のゴムが熱劣化して伸びきってしまい、履いているうちにズルズルと下がってくるようになります。消耗品とはいえ、乾燥機に入れると1回でダメになることもあります。お財布のためにも、これらはタオルドライして干すのが正解です。
乾燥機なしでも1時間で乾く?ナイロンの「疎水性」を活かしたプロ直伝の速乾テクニック
そもそも、ナイロンは「疎水性(水を吸わない性質)」が高い素材です。綿のように繊維の中に水を含まないので、表面についた水分さえ取ってしまえば、驚くほど早く乾きます。乾燥機のリスクを冒す必要なんてないのです。
最速の乾燥術は「バスタオルサンド」です。脱水後のナイロン製品を乾いたバスタオルで挟み、上から手で押して水分をタオルに移します。
その後、風通しの良い場所にハンガーで干せば、夏場なら30分、冬場でも1時間あれば乾きます。急いでいるなら、そこに扇風機やサーキュレーターの風を当ててください。熱ではなく「風」で乾かす。これがナイロンを長持ちさせる最大の秘訣ですよ。

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