「来週の結婚式に着ていくスーツ、カビが生えてる!」「明日からの出張、ワイシャツが足りない!」
そんな青ざめた顔でカウンターに駆け込んでくるお客様を、私はもう何百人と見てきました。焦る気持ち、痛いほど分かります。でも、クリーニングには「洗って乾かす」という物理的な時間がどうしても必要です。
「いつ出せば、いつ戻ってくるのか」。この目安を知っているだけで、あなたの生活から「着ていく服がない」というパニックは消え去ります。国家資格を持つクリーニング師であり、毎日お店で受付をしている私が、アイテムごとの正確な日数と、どうしても急ぎたい時の裏事情をこっそりお教えします。
スーツは最短何日?ワイシャツ・ブラウスなど「アイテム別」仕上がり日数の相場早見表
まず、結論からズバリお伝えしましょう。クリーニングの日数は「何を出すか」によって大きく変わります。一般的な個人店やチェーン店での標準的な仕上がり日数をまとめました。これは「特に急ぎの指定をしない場合」の目安です。
| アイテム | 通常コースの日数 | 備考 |
| ワイシャツ | 1日〜2日 | 機械仕上げのため早い。午前出しで翌日夕方が一般的。 |
| スーツ(上下) | 2日〜3日 | ドライクリーニングは乾燥が早いため比較的スピーディー。 |
| 学生服 | 1日〜2日 | 週末に集中するため、土曜朝出し→日曜夕方渡しが多い。 |
| セーター・ニット | 3日〜5日 | 形を整える仕上げに時間がかかるため、少し長め。 |
| コート・ダウン | 5日〜10日 | 厚手素材は内部乾燥に時間がかかる。 |
| 礼服(喪服) | 2日〜3日 | 急ぎ対応してくれる店が多いが、基本はスーツと同じ。 |
これらはあくまで「平常時」の目安です。ここから、お店のタイプやオプションの有無によって日数が足し算されていくと考えてください。
「今日出して今日着たい!」即日仕上げを成功させるための「タイムリミット」と店舗選び
「今日の夕方までにどうしても必要!」という絶体絶命のピンチ。これを救うのが「即日仕上げ(当日仕上げ)」です。しかし、これには厳格なタイムリミットが存在します。
多くのチェーン店では、「午前10時(または11時)」を締め切りラインに設定しています。これは、店舗から工場へ衣類を運ぶ配送トラックの出発時間です。この便を逃すと、どんなに頼み込んでも当日中に仕上げることは物理的に不可能です。
また、即日仕上げに対応できるのは、一般的に「ワイシャツ」「スーツ」「学生服」などの乾きやすいドライクリーニング品に限られます。厚手のコートや、乾燥に時間のかかる綿のパンツなどは対象外になることが多いので注意が必要です。
ダウンやコートが「2週間待ち」になる理由…厚手衣類に不可欠な「静止乾燥」の秘密
「スーツは3日でできるのに、なんでダウンジャケットは2週間もかかるの?」と不思議に思ったことはありませんか。これは店側がサボっているわけではなく、生地を傷めないための「愛」なのです。
ダウンや高級コートは、グルグル回る乾燥機(タンブラー乾燥)にかけると、中の羽毛が折れたり、生地が縮んだりしてしまいます。そのため、ハンガーに吊るした状態で、温風を当てながらじっくりと乾かす「静止乾燥」や「自然乾燥」を行う必要があります。
特にダウンは、表面が乾いていても中の羽毛が湿っていると、後から強烈な生乾き臭が発生します。それを防ぐために、プロは何日もかけて芯まで乾燥させているのです。冬物の納期が遅いのは、品質を守っている証拠だと思ってお待ちいただければ幸いです。
工場直営店vs取次店!「お店のタイプ」を見分ければ仕上がりまでの早さが分かる
実は、看板は同じクリーニング店でも、その中身には2つのタイプがあり、それによってスピードが全く違います。
一つは「ユニット店(工場一体型)」。お店の奥に洗濯機やプレス機があるタイプです。ここで洗っているため、配送のタイムラグがなく、急ぎの融通が最も利きやすいのが特徴です。
もう一つは「取次店(とりつぎてん)」。受付だけで、洗い場は別の遠くの工場にあるタイプです。こちらは往復の配送時間がかかるため、どうしてもユニット店より+1日〜2日余計にかかります。
急いでいる時は、お店の外を見て「煙突」や「蒸気の排気口」があるか確認してみてください。機械があるお店の方が、圧倒的に早いです。
シミ抜き・撥水・汗抜き加工…オプションを追加すると「+何日」計算すればいい?
「ついでにシミも抜いておいて」と軽く頼んだ結果、仕上がり予定日が大幅に伸びて驚くことがあります。オプション加工は、通常の洗浄ラインから外れて別工程に進むため、どうしても日数が追加されます。
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汗抜き加工(水洗い)は +2日〜3日。通常のドライ洗浄に加え、水洗いと乾燥の工程が増えるため。
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撥水加工は +1日〜2日。加工剤を吹き付けて熱処理をする時間が必要。
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シミ抜きは +3日〜2週間。これが最も読めません。簡単なシミなら変わりませんが、頑固なシミは「漂白→中和→洗浄」を何度も繰り返すため、職人の作業時間が必要です。
急ぎの場合は、あえてオプションをつけずに「通常のクリーニングのみ」にする決断も時には必要です。
「春の衣替え」は要注意!3月~5月の繁忙期にクリーニング日数が倍増する裏事情
クリーニング業界には、魔の「繁忙期」があります。暖かくなり始める3月後半からゴールデンウィーク明けにかけてです。この時期は、日本中から冬物のコートやダウンが山のように持ち込まれ、工場はパンク寸前になります。
普段なら1週間で戻ってくるダウンジャケットが、この時期だけは「1ヶ月待ち」になることも珍しくありません。工場内のレールに服が溢れかえり、物理的に洗う順番待ちが発生するからです。逆に、夏場や1月・2月は閑散期で工場が空いているため、驚くほど早く仕上がります。急ぎでなければ、衣替えはずらして出すのが賢い利用法です。
布団・カーペット・着物は別格!特殊品クリーニングが「忘れた頃に戻ってくる」理由
洋服以外の「特殊品」は、受け付けたお店で洗っていることはほぼありません。着物は着物専門の工場へ、布団は大型の布団専用工場へ、皮革製品は革の工房へ、それぞれ「外注」に出されます。
それぞれの専門工場へ送る物流の日数と、特殊な洗浄・乾燥期間を合わせると、最低でも2週間、長ければ1ヶ月以上かかるのが普通です。特に着物は、ほどいて洗って縫い直す(洗い張り)場合など、数ヶ月単位のプロジェクトになることもあります。
「来週法事があるから数珠と喪服を」と思っても、数珠(特殊品扱い)だけは間に合わない、なんてことにならないよう、特殊品は使ったらすぐ出すのが鉄則です。
予定日より早く取りに行っても、実はできている?店員が教える「仕上がり連絡」の真実
伝票に書かれた「仕上がり予定日」。これより前に行っても受け取れるのでしょうか?答えは「半分イエス、半分ノー」です。
工場から店舗への配送は毎日行われているため、予定日より1日早く届いていることは多々あります。しかし、まだ届いていない場合、店員がバックヤードを探し回る時間が無駄になってしまいます。最近では、仕上がったらメールやLINEで通知が来るサービスを導入している店舗も増えています。
通知が来ていれば確実ですが、来ていないのに「もしかして」と行くのはギャンブルです。どうしても早く欲しい場合は、電話で「伝票番号」を伝えて、届いているか確認してから足を運ぶのがマナーであり、確実な方法です。
どうしても明日必要!リスク覚悟の「特急コース」を使う前に知っておくべきこと
最後に、プロとして「特急仕上げ」のリスクについてお話しします。多くの店で追加料金を払えば「特急」にできますが、これはあくまで「優先的に洗う」サービスであり、「魔法を使って乾かす」わけではありません。
無理やり乾燥時間を短縮したり、機械の熱を上げたりすることで、生地には少なからず負担がかかります。また、洗浄後の「静置(熱を冷まして繊維を落ち着かせる時間)」が短縮されるため、型崩れやシワ戻りが起きやすくなるリスクもあります。「どうしても明日着ないと社会的に死ぬ」という緊急事態以外は、服のために十分な日数をかけてあげるのが、長持ちの秘訣ですよ。

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