「明日プール授業だから水着出して!」
夜の9時にこのセリフを聞いて、殺意を覚えたことのあるお母さんは私だけではないはずです。ビショビショに濡れた水着を前に、「乾燥機で一気に乾かしてしまおうか…」と悪魔の囁きが聞こえる瞬間ですね。でも、そこでボタンを押したら最後、その水着はゴミ箱行き確定です。
国家資格を持つクリーニング師であり、三児の母でもある私が、なぜ水着に乾燥機が厳禁なのか、そして機械を使わずに朝までにカラッと乾かす「魔法のテクニック」を伝授します。
焦る気持ちを抑えて、まずはこの記事を読んでください。数百円のコインランドリー代と、数千円の水着代を守ることができます。
乾燥機に入れたら一発アウト?水着の命である「ポリウレタン」が熱で死ぬ理由
なぜ、タオルや下着は乾燥機にかけていいのに、水着はダメなのでしょうか。その理由は、水着に使われている「ポリウレタン」という伸縮素材にあります。このポリウレタンは、ゴムのように伸び縮みして体にフィットしてくれる素晴らしい素材ですが、実は熱に対して致命的に弱いという弱点を持っています。
一般的な衣類乾燥機の温度は、低くても60度、高いと80度近くに達します。一方、ポリウレタンが耐えられる温度の限界はもっと低く、乾燥機の熱風を浴びると、繊維が「熱分解」を起こしてしまいます。
イメージしてください。輪ゴムを炎天下のアスファルトに放置すると、ドロドロに溶けたり、カピカピに干からびて千切れたりしますよね。乾燥機の中の水着には、まさにそれと同じ現象が起きているのです。たった1回の乾燥機使用が、水着の寿命を数年分縮める行為だと思ってください。
ゴムが切れるか生地が溶けるか…乾燥機によるダメージの「初期症状」と寿命サイン
「一度だけ間違えて乾燥機にかけてしまったけど、見た目は大丈夫そう」と安心するのは早計です。熱によるダメージは、繊維の奥深くで進行しています。乾燥機によるダメージの典型的なサインは、生地が薄くなって透ける「菲薄化(ひはくか)」と、白い粉が出る現象です。
水着の生地を少し引っ張ってみてください。もし「プチプチ」という小さな音がしたり、生地の表面から細かい白い粉のような繊維が飛び出していたりしたら、それは中のポリウレタン糸が熱で焼き切れている証拠です。こうなると伸縮性が失われ、プールに入った瞬間に水着がダルダルに伸びて脱げそうになったり、お尻の部分が透けて見えたりする大惨事に繋がります。
ドラム式洗濯機の「低温乾燥」ならセーフ?家庭用洗濯乾燥機の意外な落とし穴
最近の高機能なドラム式洗濯機には「低温乾燥モード」や「デリケートコース」がついていますが、これも水着にはお勧めしません。たとえ温度が低めであっても、乾燥機は「叩き洗い」のように衣類を回転させて乾燥させます。
水着の生地は摩擦にも弱いため、ドラムの中で何度も壁に叩きつけられると、生地の表面が毛羽立ち、毛玉だらけになってしまいます。特にプールサイドや滑り台との摩擦が多いお尻の部分は、乾燥機の摩擦ダメージが加わると一瞬でザラザラになります。「ヒートポンプ式だから優しい」というメーカーの謳い文句も、水着に関しては例外だと考えてください。
プールの脱水機は「1分」やったら回しすぎ!型崩れを防ぐ正しい秒数と入れ方
多くのプールやジムの更衣室に設置されている、蓋を押さえて使うタイプの「高速脱水機」。これは熱を使わず遠心力だけで水を飛ばすため、乾燥機よりは遥かに安全です。しかし、やりすぎは禁物です。
強力な遠心力は、生地を強烈に引っ張ります。何分も回し続けると、型崩れや伸びの原因になります。正解は「10秒から30秒」です。水が滴らない程度になれば十分です。
また、入れる時は無造作に放り込むのではなく、必ず水着を畳んで、回転槽の壁に沿わせるように入れてください。クシャクシャのまま回すと、重心が偏ってガタガタと異音が鳴るだけでなく、水着の一部だけに強い負荷がかかってシワの原因になります。
うっかり乾燥機にかけてしまった!縮みや変形をチェックするポイントと応急処置
もし、家族が親切心で水着を乾燥機にかけてしまったらどうすればいいのでしょうか。残念ながら、熱で変質したポリウレタンを元に戻す薬剤や方法はこの世に存在しません。できることは「生存確認」のみです。
まず、ウエストや足ぐりのゴムを優しく引っ張り、弾力が残っているか確認してください。戻りが悪かったり、中でブチブチと切れる感触があれば、その水着は寿命です。また、プリント部分は熱で溶けてくっついている可能性があります。無理に剥がすと柄まで剥がれるので、もう一度ぬるま湯につけて優しく剥がしてください。それでもダメなら、安全のために新しい水着への買い替えを検討すべきです。プールの中で破けるリスクを冒すべきではありません。
明日までに乾かしたい!乾燥機なしで驚くほど早く乾く「タオルサンドイッチ法」
では、乾燥機を使わずに明日までに乾かす最強の方法をお教えしましょう。用意するのは「大きめの乾いたバスタオル」です。
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バスタオルを広げ、その上に脱水した水着を置きます。
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海苔巻きを作るように、タオルで水着をくるくると巻き込みます。
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巻いたタオルの上から、手で優しく押すか、軽く足で踏んで体重をかけます(強く踏みすぎないこと)。
これだけで、水着に残った水分がタオルに驚くほど移行します。これを2回繰り返せば、水着は「ほぼ乾いている」状態になります。あとはハンガーにかけて干すだけ。この「タオルサンドイッチ法」なら、湿気の多い夜でも翌朝には確実に乾いています。
早く乾かすために「直射日光」はアリ?色褪せと劣化を防ぐベストな干し場所
「お日様に当てたほうが早く乾く」と思いがちですが、水着にとって紫外線は、乾燥機の熱に次ぐ「天敵」です。紫外線はポリウレタンを劣化させ、鮮やかな色を退色させてしまいます。
正しい干し場所は「風通しの良い日陰」です。室内なら、扇風機やサーキュレーターの風を直接当ててください。温風ではなく「風」で水分を飛ばすのが、生地を傷めずに最速で乾かすコツです。浴室乾燥機を使う場合も、ヒーター(熱風)は切って「涼風(換気)」モードにし、直接温風が当たらない位置に干すのが鉄則です。
塩素を放置すると乾燥中に劣化が進む!脱水前に必ずやるべき「塩素抜き」のひと手間
乾燥させる前の「洗い」も重要です。プールの水に含まれる「塩素」は、漂白剤と同じ成分であり、繊維を溶かす作用があります。濡れたままビニール袋に入れて持ち帰っている間に、塩素による劣化は進行しています。
家に帰ったら、洗剤で洗う前に、まずはたっぷりの水で「押し洗い」をして塩素をしっかり抜いてください。このひと手間を惜しんで塩素が残ったまま乾燥させると、乾く過程で塩素濃度が高まり、ダメージが加速します。「脱ぐ、水ですすぐ、持ち帰る」この習慣をつけるだけで、水着の持ちは劇的に変わります。
結論:水着を長持ちさせたいなら「遠心力」と「風」だけで乾かすのが正解
水着の乾燥方法について、ダメージのリスクを表にまとめました。
| 乾燥方法 | スピード | ダメージ度 | 判定 |
| コインランドリー乾燥機 | 早い | 危険(即死レベル) | 絶対NG |
| 家庭用洗濯乾燥機 | 早い | 大(寿命縮む) | NG |
| 直射日光(天日干し) | 普通 | 中(色褪せ・劣化) | △ |
| タオル脱水 + 扇風機 | かなり早い | なし(安全) | ◎(推奨) |
結論として、水着を乾かすのに「熱」は一切不要です。「タオルで水分を吸い取り、風を当てる」。これさえ守れば、高価な水着を何年もキレイな状態で着続けることができますよ。

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