コートをクリーニングに出さないとどうなる?プロが教える「洗わずに済ませる条件」と自宅ケア術

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「たった数回しか着ていないコートに、3,000円もクリーニング代を払うのはもったいない」「冬が終わるたびに重いコートを何着も店に運ぶのが苦痛」と感じていませんか。家計を預かる身としては、家族全員分のコート代だけで万単位の出費になるのは頭が痛い問題ですよね。

でも、クリーニング屋の看板を守る私からすると、そのままクローゼットにしまうのは「来年そのコートを捨てる覚悟」がある時だけにしてください、と本音ではお伝えしたいのです。

とはいえ、全てのコートを出す必要もありません。素材を見極め、適切な自宅ケアができれば、クリーニングをスキップしても美しさを保つことは可能です。今回は、クリーニングに出すべき服と出さなくて良い服の境界線、そして「出さない派」が絶対に守るべき鉄則をお話しします。

クリーニングに「絶対に出すべき服」と「家で済む服」の境界線

まず知ってほしいのは、コートの素材によってクリーニングの必要性が180度変わるということです。私たちがクリーニングを強く勧めるのは、ウールやカシミヤなどの「動物の毛」を使った天然素材のコートです。これらは「虫食い」の標的になりやすく、目に見えない皮脂汚れがついているだけで、来シーズンには穴だらけになっているリスクがあるからです。

一方で、ポリエステルやナイロン100%のカジュアルなコートや、キルティングジャケットなどは、汚れが繊維の奥まで入り込みにくいため、適切な部分洗いと乾燥ができれば、必ずしも毎年クリーニングに出す必要はありません。以下の表で、お手持ちのコートがどちらのタイプか確認してみてください。

素材・種類 クリーニング推奨度 スキップした際のリスク
ウール・カシミヤ・アンゴラ ★★★(必須) 虫食い、カビ、獣毛特有の臭い発生
ダウンジャケット ★★☆(推奨) 羽根の固まり、ボリューム消失、酸化臭
トレンチコート(綿・ポリ) ★★☆(推奨) 襟袖の黄ばみ、食べこぼしがシミに変化
ポリエステル・ナイロン系 ★☆☆(条件付き可) 表面の汚れ、静電気による黒ずみ

放置した汚れが「虫食い」と「カビ」を招く

「数回しか着ていないから綺麗」という思い込みが一番危険です。実は、一度でも袖を通せば、襟元には皮脂が、袖口には手の脂が付着しています。これらは時間が経つと空気に触れて「酸化」し、落ちにくい黄色いシミに変わります。また、カビは湿気だけでなく、食べこぼしや皮脂を餌にして爆発的に増殖します。

さらに恐ろしいのが衣類害虫です。彼らにとって、皮脂がついた高級なウールは、高級レストランのフルコースのようなもの。クリーニングに出さずにしまうということは、クローゼットの中に虫たちを招待する「招待状」を置くのと同じことなのです。来年の冬、お気に入りのコートを出した時に「1ミリの小さな穴」を見つけて泣かないために、最低限の汚れ落としは欠かせません。

家にある「スチームアイロン」と「ブラシ」だけで高級感を保つ手入れ術

「どうしても今年はクリーニングに出したくない」という場合に、プロの私たちが家で行っている代わりのケアがあります。それは「ブラッシング」と「スチーム」の合わせ技です。

まず、衣類用のブラシ(できれば豚毛や馬毛)で、上から下へ、繊維の奥に入ったホコリを叩き出すようにブラッシングします。これだけで、カビの胞子や虫の卵、餌となる汚れの多くを取り除けます。次に、スチームアイロンの蒸気だけをたっぷりと浴びせます。蒸気の熱は「殺菌」と「消臭」に絶大な効果があり、さらに繊維の毛並みを整えてツヤを復活させてくれます。このひと手間を加えるだけで、クリーニングに出した後のようなシャキッとした風合いをある程度保つことができるのです。

洗濯機で洗えるコートの見分け方

「家で洗えばタダじゃない!」と考えて、洗濯機に放り込もうとしているなら、少し立ち止まってください。コートのタグにある「水洗い不可」マークは、単なる脅しではありません。

特にウールコートの場合、水に浸けると繊維の表面にあるスケール(うろこ状の節)が開き、互いに絡み合って「フェルト化」してしまいます。

一度フェルト化したコートは、二度と元の柔らかさやサイズには戻りません。子供服のように縮み、ガチガチに硬くなってしまったコートを抱えてお店に来るお客様を、私は何度も見てきました。ポリエステル製で中綿のキルティングコートなら、おしゃれ着洗剤と「手洗いコース」で対応できる場合も多いですが、裏地の有無や芯地の素材によっても結果は変わります。「洗える」と確信が持てない限り、水洗いは博打に近い行為だと覚えておいてください。

「洗わず保管」する場合の必須条件

もし、どうしてもクリーニングに出さずに来シーズンまで保管するなら、場所選びと環境作りが全てです。まず、絶対にやってはいけないのが「ビニールカバーをかけたまま」や「クローゼットにギュウギュウに詰め込む」ことです。通気性が悪い場所では、わずかな湿気が原因で一晩にしてカビが生えることもあります。

洗わずに保管する場合は、不織布のカバーにかけ替え、防虫剤と除湿剤を「これでもか」というくらい万全にセットしてください。そして、3ヶ月に一度はクローゼットを開け放ち、扇風機で風を当てて「空気の入れ替え」をしてあげること。この手間が、クリーニングに出さない代わりに支払う「メンテナンス料」だと思ってください。

クリーニングに出さずとも清潔感をキープする部分洗いテク

全体を洗う必要はないけれど、襟元のファンデーションや袖口の黒ずみだけが気になる。そんな時は、クリーニングに出さずに「部分叩き洗い」で対応しましょう。

おしゃれ着用の液体中性洗剤を水で薄め、柔らかいタオルに含ませて、汚れた部分を優しく叩きます。この時、汚れを広げないように、下に乾いたタオルを敷いて「汚れを下のタオルに移す」イメージで行うのがコツです。その後、水で濡らしたタオルで洗剤分を丁寧に拭き取り、最後は必ずドライヤーや陰干しで完全に乾燥させてください。水分が残っていると、そこからカビが発生したり、輪ジミになったりするので注意が必要です。

クリーニングを「隔年」にするための賢いコートローテーション術

毎年全てのコートを出すのが大変なら、クリーニングを「1年おき」にするという考え方もあります。例えば、今年はウールの本命コートだけを出し、ポリエステル混のサブコートは自宅ケアのみ。翌年はその逆にする、といったローテーションです。

ただし、これは「ワンシーズンに数回しか着なかった服」に限ります。週に何度も着たコートは、私たちが想像する以上に排気ガスや汗を吸っています。自分の着用頻度と素材のデリケートさを天秤にかけて、「今年は休ませる」「今年はプロに任せる」という判断ができるようになると、衣類も長持ちし、家計の負担もぐっと軽くなりますよ。

年1回で足りる?おすすめの「コートのクリーニング頻度」

「結局、どれくらいの頻度で出すのが正解なの?」という疑問にお答えします。基本的には、冬が終わって収納する前の「衣替えのタイミングで年1回」が、コートの寿命を縮めず、かつ清潔さを保つための標準的な頻度です。

クリーニングは汚れを落とす一方で、少なからず生地に負担をかける作業でもあります。そのため、あまり頻繁に出しすぎるのも、実は生地の風合いを損ねる原因になるのです。

ただし、着用頻度や状況によっては、この基準を変える必要があります。毎日同じコートを通勤や通学で着ている場合は、ワンシーズンに2回(1月頃の中間洗いと、3月の仕舞い洗い)が理想的です。

逆に、冠婚葬祭などで数時間しか着なかったようなコートは、先ほどお伝えした自宅ケアを完璧に行う前提で、2年に1回という選択肢もアリですよ。

着用シーン・頻度 理想的なクリーニング頻度 理由
週3回以上着るスタメン シーズン中に1回 + 衣替え時に1回 排気ガスや皮脂汚れが蓄積しやすいため。
週1〜2回のお出かけ用 衣替え時に年1回 汚れが定着する前にリセットするのが一番。
年に数回の冠婚葬祭用 2年に1回(自宅ケア必須) 汚れが少なければ、出しすぎによる劣化を防ぐ。
食べこぼし・泥ハネ 汚れたらすぐ(例外) シミは時間が経つほど落ちなくなるため。

結局のところ、クリーニングは単に「汚れを落とすため」だけではなく、次のシーズンに「カビや虫食いから守るための保険」という意味合いが強いのです。

自分の着用スタイルに合わせて、出す・出さないのメリハリをつけることが、服を長持ちさせながら家計を守る、賢い主婦のやりくり術だと言えますね。

クリーニングママ

国家資格を持つクリーニングママ店主。プロの技×主婦の目線で、洗濯を「ラクで綺麗」にするコツを発信しています

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